科学者を展示する(続報):日本科学未来館に黒板。


ついに科学未来館に、足下まである巨大黒板が設置された.2013年11月9日、10日と開催された「サイエンスアゴラ2013」で、理研のブースとして「理論物理の研究現場をのぞいてみよう」というイベントが開催された.科学未来館の目玉アート、「ジオコスモス」(地球が投影された大きな球体の映像展示物)の直下に、まさか理論物理の研究者が議論できる黒板が設置される日が来るとは.

これは、半年前の理研一般公開で研究室で開催した「科学者を展示する」というイベント(詳しくはブログ参照)の続編とも言うべきイベントで、一般公開での経験を生かし、またまた理論物理学研究者にガチで議論してもらうというもの.前回登場してくれた、研究室の研究員の方や初田さんに加えて、今回は肥山さんや私の共同研究者にもご登場いただいた.そやかて今僕が研究を進めているホットな話題というと岡さんとの話なので、それをそのまま科学未来館で「展示」するわけ.

今回の展示はシンプルだが、さらに、研究者による議論の展示の後に、研究者と来場者が対話できる時間を設け、質問からいろんな話をしたり.また、初田さんのアイデアで、小学生にはアインシュタイン方程式を黒板で書いてもらって記念撮影、というイベントも同時開催.


僕は共同研究者の初田さんと議論をして、まさに良い式が書け、これは半年前から思い描いていた描像が具現化した瞬間だった.まさか科学未来館でそんなことになるとは.論文が出来てしまった瞬間だった.共同研究者である岡さんとの議論も面白く進み、新しい方向性が見えてくる感じになった.こんな嬉しいことは無い.別に科学未来館でもどこでもいいのだが研究が進んだことが単純にいつものように嬉しい.そして、そのプロセスを、サイエンスアウトリーチの一部として使えていることが、嬉しさを倍増させてくれる.

半年前のトライアルでうまく行っていなかった点を考慮して、解説員が積極的に説明するようにした.このような形のアウトリーチになれていない来場者の人がほぼ全員なので、ここで何をしているのか、研究の内容は何なのか、科学の営みとは何なのか、などを丁寧に説明していく.珍しいですね、ですぐに出て行く人も居れば、前衛的だと唸る人も.大学生・高校生から小学生には、珍しさからか興味を引いたようで、「生ガリレオ」の写真を撮る人も多い.


そもそも理研広報室の理解で、自立式の巨大黒板を作ってもらえたことが大きい.書き味も非常に良く、いつもの黒板を使っている雰囲気で議論することが出来た.また、漫画家の竹葉久美子さん(理論物理学者を主人公にしたマンガ「やさしいセカイの作り方」を描かれている)の画による、僕と初田さんの似顔絵が描かれた「のぼり」も登場し、来場者を誘ったことも楽しい.

研究者そのものを展示するという理研一般公開でのイベントは、色々な反響を呼んだ一方で物議もかもした.でも、そもそも、サイエンスアウトリーチって何だろう.僕は、それは「科学を身近に感じてもらう」の一言に尽きると思う.アウトリーチにはいろんなやり方があるし、黒ラブ教授なんて僕はファンである.
しかし、こうでなければいけない、ということは無い.どんな方法を使っても、まずは、科学を身近に感じてもらうことがもっとも大事だ.それがまずあって、その次に、例えば研究者の方々に要求する能力やレベル、充実感の問題や、研究成果をどう分かり易く伝えるかという大事な点、来場者がその後どのようにサイエンスにコミットするかという継続性、などいろんな本質的な(かつ難しい)面がやってくる.しかしながら、サイエンスを身近に感じてもらえなければ、いかに研究者が口を酸っぱくして研究成果を語っても、無意味である.


科学者を展示するということは、まずは、人間としての研究者の営みを、まさに間近で身近に感じてもらうということである.理論物理学者が黒板で議論している様子なんて、理論物理学者になりたいと思った子供が経験するには遠すぎた.物理を勉強して、大学に入って、研究室に配属されて、それでようやく目にすることが出来る光景なのだ.けれど、考えてみれば、どんな職業だって、研究者より身近だろう.電車の運転手になりたい男の子が、電車の一番前に陣取る、それは当たり前の風景だ.そういうことが、科学者になりたい子供にも同じように経験できたら、どんなにいい影響があるだろう.

科学者と一緒に、科学者が議論に使った黒板で、嬉しそうにアインシュタイン方程式をチョークでなぞる小学生.書き終わったら得意げに「ママ!ほーてーしき書いたよ!」でキラキラの目.すごい嬉しかった.

「科学者を展示する」アウトリーチ手法、いろんな研究施設で是非トライしてほしい.それで、どんな風だったか、ぜひ僕まで教えて下さい.

むちゃ楽しかった.