新たな思いで.

地震からもうすぐ一ヶ月が過ぎようとしている.原発事故の問題は、まだまだこれからである.

震災のことはつらつら書くまい.研究記録として書いているこのブログには、生活も研究の一部と考えて書いてきた面もある.震災はそう言う意味で僕の人生に大きな影響を与えた.しかしそのことはつらつら書くまい.

嬉しかったこと.それを書く.年度末に論文を二つ、プレプリントサーバに公開した.

一つ目は、超弦理論の技術でクォークの強結合から原子核の生成を示した論文"Nucleus from String Theory"ギリシャの森田君との共同研究.クォークの結合は強すぎるためその動力学を解析的に解くことは困難であるが、超弦理論で近年発達した手法を用いると、ある極限で解くことが出来るようになる.以前に飯塚君とPiljin Yiと書いた論文では、この手法を用いて、核子(陽子・中性子)の多体系を近距離で記述する量子力学の作用を導出した.今回の森田君との論文では、その量子力学核子の数が大きい極限からの展開(=原子核が重い場合)で解き、一般に核子がお互いに寄り合って原子核を生成することを示した.

二つ目は、嬉しいことに、2010年度の研究室メンバー全員で書いた論文."Anomaly-induced Charges in Nucleons". 核子を電磁場中に置くと、核子内に量子アノマリの効果で電荷分布が現れる、という論文.いろいろと物議をかもしているようなので、ぜひ色んな人と議論したい.12月に衛藤君、飯田君、三輪君と出した論文の続きの議論が、非常に面白い方向に発展し、初め考えていたこととは大きく変化してシンプルかつ大胆な論文になったと感じている.素粒子原子核の院生なら誰でも理解できる内容やし.昨年度始めに、研究室がスタートしたとき、メンバーを集めて語ったこと、「みんな分野違うけど、議論しようや!」がほんまに大きな形になった.それが心から嬉しい.メンバーのうち、衛藤君は山形へ、石井君はケンブリッジへ発って行った.メンバー全員で集まるその最後の瞬間が、論文完成の瞬間やった.なんということやろ.偶然やないわ.これは、メンバー全員の力やと思う.こんな研究室にしたいと思っていた、それが理研で実現した.

どちらの論文もとても楽しい論文で、物理やってって良かった、と思う.共同研究者と巡り会わなかったら、絶対に出てけえへんかった.最後は皆、地震や引越でほんま大変やったと思うが(僕も含めて)、しかしそれで研究アクティビティが落ちたと思われるのは僕はシャクやわ.やってやろうやないか.日本から元気な論文を今こそ出す時や.

4月から研究室新メンバーがやって来て、また違ったにぎやかさになった.昼食後の雑談からの議論も楽しい.それぞれの自己紹介を聞いていると、みな全然違う畑からやって来ているのに、何となく興味の対象にオーバーラップがあり、それぞれの輪っかをつなげると大きな輪っかになりそうに思えた.素晴らしい人たち.研究室ホームページ http://ribf.riken.jp/MP/も一新した.

地震の直前に家庭環境が激変したため(引越、妻の出産+転職、育児分担、これらのエフォートは足し算ではなく、かけ算だった)、そこに発生した地震で、この一ヶ月はほんまにつらかった.しかし、ここから200キロしか離れていないところに生きている日本人の方々の日々の生活を考えると、自分の生活のつらさは吹けば飛ぶような微塵である.震災において、自分に今何が出来るか.それを毎日考えながら、出来ることを全部やっている.