科学は芸術.

科学のアウトリーチの王道は、もちろん、最先端の科学を分かり易く伝えることである.そのことは、理研の一般公開や、様々な一般講演で良ーく身に染みて理解してきたつもりだ.しかし、ちょっと違うんやないか、と思う面がある.

科学というのはそもそも芸術に近いところがあって、僕自身も芸術を創り出しているというイメージで科学をやっている.そういうと怒る人も居るかもしれない.科学は人間の生活に役に立つからこそ科学なのであって、そのために税金出しているんや、と.しかし、人の役に立つために全ての科学が生み出されるというと、それはとんでもなく間違っている.科学は自然すなわちこの世界を理解しようとする試みなのである.自然は美しい(はずであり)、その美しく秘められたものを掘り起こすという作業が、科学そのものなのである.

科学が芸術であるという議論はずっと昔からある.例えばチャンドラセカールの名著もその1つに過ぎない.まあそんな古びたものを持ち出さなくても、自分也の芸術というものを突き詰めているのがそれぞれの研究者なのだから、それでいいのである.しかし、アウトリーチという観点で見ると、科学のアウトリーチにおいては、ちょっと違った芸術的アウトリーチがもっとあっていいように思う.

で、夏休みの自由研究に、芸術作品を作ってみました.
A scientist's life - condensed - YouTube

ここでは、科学の内容は一切触れないことが原則.ただただ、理論科学者が黒板に向かって計算をしていることをひたすら見ていただく.ただただ机に座って数式を書いているところを見ていただく.それが、素晴らしい芸術になりうるということを、僕は確信を持った.

黒板は美しい.これは科学者だけの想いであると信じていたのだけれど、実はそうではないらしいということを最近知った.これはひょんなfacebooktwitter経由の飲み会からだったのだけれど、まったく、数式+黒板の美しさを理解してくださる方々の裾野は広いようだった.しかも、科学は芸術活動であるということを理解してくださる芸術家も多いことに気がついた.

で、夏休みの自由研究は、それを人間の営みという形にして、動画として世に出す、しかもアップテンポの音楽、自分の頭の中に研究の時に流れているような脈動感、を載せて.この自由研究は、仁科センターの宮内さんというカメラの方のご協力で、三日で完成した.素晴らしい.思った通りの動画が出来上がった.僕のプロモーションビデオみたいになっているけど.

その動画で黒板に書かれている内容は、その時に僕が一番頭の中に溜め込んでいた研究内容.しかしそのことをここに書くことはするまい.だって、科学の内容を説明せずに、数式と研究をそのまま見せることが目的だから.でもちょっとだけ書いておくと、黒板の内容は、昨日アーカイブに出した論文(衛藤くんと初田さんとの共同研究)に基づいてます.あたかも動画では一人で研究したように見えるけど、実際はお二人との一年にわたるディスカッションに基づいて完成した内容.今度動画を作るとしたら、共同研究の動画を作ってみたい.

科学と芸術、どう思いますか?