MITにて。

もうMITに来て四日目を迎えている。早いもんだ。きのう、おとついと、MITとBrownでのセミナーを終え、気が抜けている。ほっとしたのか、体中の力が抜けて、なんだかポーっとしている。

日曜日の夜遅くに到着して、そのまま宿でぐっすり寝込んでしまったおかげで、月曜日の朝に、全く時差ボケもなく起きることが出来た。飛行機でずいぶんと寝たこともあるかもしれない、とにかく、一日目から時差ボケも無く生活できるのは大変便利だ。宿は前にも何回もお世話になった、コーポレートステイという会社の持つマンスリーマンションで、ハーバードスクエアから歩いて10分かからないところ。ここ、実は4年前にMITを訪問したときに泊まった宿と全く同じで、懐かしかった。とにかく、ボストンの町、ハーバードスクエア、が懐かしくてたまらない。目に飛び込んでくる一つ一つの風景が、心の底の記憶を鮮やかによみがえらせてくれる。駅前のパン屋、きしむ地下鉄、コンビニ、レンガ歩道の上に残っている黒い雪。宿も前と全く同じだ。家具の配置も含めて。4年前に加えて、この町にはちょうど2年前にも数ヶ月住んだこともあって、あの時いろいろと苦労したことが本当に走馬灯のように思い出された。

MITのCTPは今以前のスペースを改築して増築中ということで、場所がKendall駅のすぐ上に移動していた。どんな風になっているのかと興味深々で訪ねてみる。久しぶりにJoyceに会って、ビジター部屋に案内してもらう。うん、窓は無いが(笑)、落ち着ける部屋ともいえるかな。すぐにWatiが飛び込んできて、久しぶり、と挨拶。早速議論をする。駒場で議論したことの復習を少しして、それからの発展と基礎となる方程式群を確認しているうちにすぐお昼の時間になる。お昼ごはんをかねて、Dark energy/ Dark Matter lunchがあるので参加しないかといわれて、ああ、二年前にAmiが連れて行ってくれたやつだ、やったー、と思いつつ、WatiとHongにつれられて出かける。話はニュートリノ質量の実験(Katrin)の内容で、たいそう楽しめた。前日たまたまトロントのtransitの時に購入したPopular scienceという雑誌(これはとても好きで、ハワイに行ったときとか機会があるごとに英語版を購入している)を読んでいたんだけど、そこにニュートリノ質量測定器とか題してすごいでかいビール樽みたいなのが(直径10メートル)ドイツの村の街道をぎりぎりすり抜けようとしている面白い写真が載っていた。実はそれがKatrinだったわけだ。すり抜けようとしている動画も見せてもらえて、たいそう楽しかった。この実験がぜひうまくいくといいと思う。

食後は森山君に久しぶりに会って、いろいろと話すことが出来た。MITのことなどいろいろと聞く。夜は、むっちゃ懐かしいPorter squareのメキシコ料理ファーストフードに行って、super Britoをほおばる。これ、食べるの、ほんまに夢にまで見たわぁ。久しぶりに食べたけど、やっぱりうまかった。

二日目の火曜日は僕のtalkがstring clubに入れてもらっているので、話をする。たくさん質問も出たので、まあまあ興味を持ってもらえたのではと思う。instantonの入れる方向が10次元のうちのどの方向なのかということを分かってもらうのにこんなに苦労するとは思わなかった。S^4に入れるといえばtrivialかと思っていたんだけど、いろいろ絵を出したせいで余計に紛糾させてしまったかもしれない。それにしても、コメントもいろいろともらえたので、それは良かったと思う。特に、Richard Browerという人の質問が面白くて、talkの後でひとしきり話をさせてもらった。彼がPomeronをPolchinskiたちとやった人だということをそのときの会話で気づく。ああ、この人なんだな・・・・・・それで、いろいろと考えていることをお互いに話す。ハドロン=弦理論という30年前に実際にやっていた人の話を聞くのはとても興味深い。しかも、この人がたしかbosonic stringのcritical dimensionが26であることを見つけた人なはずだ。つまり、no ghost theoremを証明した人。すごい。ついでに、次の日にBrwonにセミナーに行くことを話すと、そのPomeronの研究を一緒にやったTanという人がいるはずだから議論するといいよ、と教えてくれた。

水曜日は朝からBrown大学へ出発する。Providenceに行くのははじめてなので、regional trainに乗るのもわくわくしながら、電車の切符を買う。ベーグルのサンドイッチにチーズがへばりついてべたべたするのに閉口しながら、ゆれる電車の中でトラペをいじっていると、すぐにProvidence駅に到着した。駅からは30分ほどでBrown大学に歩いて着く。美しい大学だ。丘の上にあって、central yardがとても広々として気持ちいい。東海岸でこんなにいい天気に恵まれるとは、幸運だ。物理学科に到着するも、少し早くつきすぎた感じがしたので、ロビーにある喫茶スペースで水を飲みながらトラペをいじる。大方出来たところでお昼になったので、Jevickiの部屋を訪ねることにした。彼はやはりいつものように暖かく出迎えてくれた。お昼ごはんをここのFacultyと一緒にpubでとることに。久しぶりにSpradlinとVolovichに出会う。彼らは小さい子供がいるらしく、保育所などの話で盛り上がる。やはりアメリカはすごくお金がかかるようだ。日本で保育園に娘を連れて行けることを幸せに思わなくてはならない。お昼では、先週のKEKでのAdS/QCDの研究会の話で盛り上がる。Spradlinは、やはり僕と同じ事を危惧していた。なんとか、この業界が健全に発展してくれたらいいと思う。string側の一員として、がんばらないといけないと強く思った。昼ごはんの後、Tan教授が訪ねてきてくれた。彼は今物理学科長をやっていて忙しい身らしいが、関連することにずっと興味を持っているQCDの人なので、話のうまがあって、ぽかぽかと陽気のテラスでいろいろと議論する。面白い考え方を知った。こういう考え方が出来るのは、やっぱりQCDやハドロン物理をずっとやってきた人だからだと思う。何が重要かって、やっぱりAdS/QCDが本当にその立場を堅固なものにするためには、実験と直接リンクするような結果を出さないといけないという認識だ。しかも、Latticeでは出せないような計算結果を。それにはある具体的な計算が出来るはずだ、と彼は述べた。ぼくはそれが非常にstraightforwardにAdS/QCDで計算可能だとすぐに分かったので、その議論をする。彼も、それには同意してくれた。これは、面白い計算になるかもしれない。しかし、そんな認識はやっぱりpureなstring屋さんでは出てこないわけで、そのへんが彼らの問題意識とのすり合わせの重要な点なのだと思う。そうこう議論しているうちにセミナーの時間になった。前日にMITでtalkをしたということもあって、問題なく進み、またトラペを少し書き直したことも手伝って、かなりスムーズにtalkが終わった。いろいろと本質的な質問も出たので、反応を嬉しく思った。うまくいってよかったと思う。Antalに再訪を約束して、帰途に着いた。すごく疲れたけど、得るところも多くて、Brown大学を訪ねることが出来てよかった。(つづく)