MIT, その後

Brownから帰ってきて、二つセミナーが終わって気が抜けてしまったのか、少しボーっとしていたような記憶がある。木曜日と金曜日はWatiとの議論に集中しようと思って、いろいろと考えをめぐらす。いろいろと方向性をまとめたノートを作る。細かい違いでは二つ方向性があって、どちらもある意味では同じような計算なのだが、意味合いがずいぶん違う。そしてそのぞれについて、正則化の入れ方が違うものを用意した。計算を少しやってみるが、まあまあうまくいくようだ。けれども係数をきちんとやっていないので、これをきちんとやってしかも無限大まで足しあわせをやりきらないといけない。やることはわかっているので、後はやってしまうだけな気がする。Watiと議論してみると、いろいろとagreeはしたけれど、一方は肝心のところで概念的な問題に出くわす。これをきちんと評価するのはどうやればよいのか良く分からないが、しかしおそらく肝心なところなので、ひょっとしたら考え方が初めからすっかり間違っているか、それともこれでよいのだが何か良い計算方法があるかのどちらかである。てな事を短い間に議論した。

議論はそれはそれとして、今回はWatiのquantum field theoryの授業を見学させてもらうことにした。彼の授業の仕方に興味を持ったということもあるけれど、それよりももっと基本的に、アメリカの大学院の授業はどんなものかを知りたいという動機が大きかった。中型の円形の講義室で、座席が映画館のように立ち上がっている、赤色のおしゃれな部屋が、Stata centerの彼の講義室だった。学生とinteractしながら、どんどんと講義は進んでいく。日本だとこの速さなら学生はついてこれないだろうが、ここでは毎週厳しい宿題が課されるので、それできっとうまくいっているのだろう。学生からたくさん質問が飛んで、このくらい学生と相互作用できる授業はきっとやっていて楽しいだろうなと想像した。

木曜は夕方からphysics colloqiumを聞きに行く。binary blackholeのcollisionについてのnumerical relativityの話。この一年から数ヶ月の間に、かなり大きな発展があったらしくて、それをspeakerは興奮して伝えてくれた。speakerを紹介するのが、なんとScottだった。彼はここのfacultyになってもう長いが、相変わらずの彼の話し方を楽しんだ。きっと彼はまだ自分の部屋に僕の使っていた''Futon''をソファ代わりに使っているに違いない。それにしてもこのnumerical relativityの話、puncture methodというのを使っているというが、なぜそれでうまくいくかという根本的なところが僕には分からなかった。業界にこの手法でうまくいくことを説得するのにも時間がかかったとspeakerは言っていたが、結局なぜそれで業界が納得したのかという点については、「それでうまくいくから」と繰り返すばかりで、僕には全く納得がいかなかった。なぜ、特異点がある数値計算が、特異点周りの時空をくりぬいてそれ以外の時空点で数値計算して、horizonより外のところにpuncture周りの作為性のある波が伝わらないようにしておけば、それで良いのか、それがぜんぜん分からない。あ、UT-physics 3をきちんと読まないといけない、か。ははは。

夜はHellermanによるstring cosmology seminarを聞く。面白い人だ、セミナーもその一言に尽きた・・・type 0とbosonic stringをtime dependent backgroundでつなぐという大変面白い話だが、はっきり言ってよくわからん。light cone typeな座標で時間無限大に行ったときに多分algebraの何かが落ちているはずなんだけど、それが何なのか全然分からなかった。

金曜日のお昼はstudent seminarに(お昼のピザを食べに)出席したけど、言いたいことが全く分からないのですぐ抜ける。これは僕が現象論を知らなさ過ぎるというよりも、やっぱり学生が話をする経験が少なすぎるということにあると思う(思いたい)。アメリカでは大学院生とポスドクの間の差が大きいというのは良く知られていることだが、MITに来てそれをまた良く思い出した。途中で抜けてそのままHarvardに行く。Harvardの話は前日のHellermanと同じ話を、彼の共同研究者のIan Swansonがするというものだったが、やっぱり全然分からなかった。自分の発表をさておいてこういうのもなんだけど、なんでもっと聴衆に優しいように用意しないんだろう。って文句言ったりして。全体的に見ても、日本人の用意するトラペはもう少し聞く人に優しくなっていると思う。ひいきかな。

Swansonのtalkの後にHarvardからMITに戻ってLNS colloqiumを聞こうと思ったが、もうたくさんのセミナーにもうんざりして、行く気をなくして止めた。いや、うんざりしたというより、外のsnow stormに絶えかねて、というほうが正しいかもしれない。feels like -10°という雪の嵐が、二年前にここに住んでつらかった思い出を鮮烈に思い起こしてくれた。今週は、水曜日まで本当に気持ちよく暖かく晴れていて、日本より暖かいくらいだったのに、いきなり30センチの積雪に最高気温がマイナスの毎日、これがボストン。

今回のMIT訪問では、Watiとまた親交を深めることが出来たということ、そしてAdS/QCDの自分たちの仕事をいろんな人に伝えることが出来たということ、が大きな収穫だ。さあ、後一つ、Perimeterのセミナーをがんばろう。Amiからは、残念やけど来週の僕のセミナーには出張で出席できないという旨のメールが来ていた。しまった、前もって僕が訪ねるのを彼に連絡しておくのを忘れていた。ま、仕方ない、また会えるよ。Alexに会えるのが楽しみ。どんなコメントをくれるだろう、それも楽しみ。