帰国の途にて。

Perimeter Instituteの訪問は大変充実していたように思う。

行く前は、Alexにちょうど子供が生まれて彼が研究所に来れなくなりそうだとかいう連絡が入ったり、Amiも出張で留守にしているということだったし、もともとの動機だったMyersに会いに行くというのもそもそも彼はsabbaticalでいないということだったので、そっかAlexもいないんだったらそりゃつまらないかな、という風に思っていた。ま、その分少し気が楽だったというのもあるかもしれない。誰々にあって議論をしようと初めから決め込んでいると、その人となかなか時間が合わなかったりするんじゃないかとか、そもそも議論がかみ合わないんじゃあないかとか、セミナーをうまくやらないとだめだとか、いろいろと頭の中を思いがめぐって、緊張してしまうのが落ちだからだ。今回はそれで、ずいぶんリラックスしていたような気もする。

Perimeter Instituteは「相変わらず」だった。豪勢さという意味では。二年前に来た時と比べると、あの時は研究会で一回来て、それとセミナーを聞きにトロントから一回来た、それだけだったから、あんまり研究所の人たちの日常という意味では研究所の雰囲気が分かっていなったかもしれない。今はGomisさんがいたりとか、少し雰囲気が違うとは思う。僕の部屋は4階の窓際で、PerimeterInstituteにofficeをもらえたというのがそれだけで嬉しかった。ま、壁が全てガラス張りなので、高所恐怖症の僕はいまいち集中できなかったけれど。研究所はやはり「豪華」の一言に尽きた。しかもその豪華さはとどまるところを知らない。ついおととい、カナダ政府が50億円の予算をPerimeter Instituteにつけたからだ。重力理論の一つの研究所に、やでー。日本と規模が違いすぎる。officeのまわりをうろうろとしてみると、あれ、Susskindがいる?どうやら彼はここに現在滞在しているようだった。今滞在している人をチェックしてみると、なんとHindmarshがいるはずになっている。semilocal stringの大家にこんなところでお会いできるとは!早速後で会いに行かねば・・・・・

午前のセミナーに出る。「What's wrong with the anthropic principles?」というかなり挑戦的なタイトルのセミナーで、やはりsusskindがいろいろと食って掛る。ああ、こんな調子で僕のセミナーでも食ってかかられたら困るな・・・と、一人で想像して緊張する。いかんいかん。ところが自分のセミナーを迎えてみると、やはりSusskindは一番前の席に座っていたが、えらくニコニコ顔だった。まるで小学生みたいな興味津々の顔をしてこちらを見ている。セミナーを始めると、彼からどんどん質問が飛ぶ。質問は僕の論旨の要点をついてくるような感じのもので、全く攻撃的ではなく、僕の言い忘れてしまったことを補強してもらえるような感じだった。これは大変ありがたかった。いくつぐらい質問をもらっただろうか、20くらいはあったように思う。(面白いことにPerimeterでは全てのセミナーの動画がwebで公開されていて、恥ずかしいことに僕のも見ることが出来る。興味のある人はご覧ください。Perimeter Institute |)最後のchiral perturbationの説明のくだりになると、crucialな指摘をいくつかされる。そのとおりです・・・・

セミナーが終わり、セミナーの前にばったりと出会っていたHindmarshとひとしきり議論をする。彼の顔写真をgoogleで調べておいたのだ。こういうときgoogleは大変便利だ。すぐ彼の顔写真が出てきて、それですれ違ったときに自己紹介をすることが出来た。それで、新田たちとしたsemilocal stringのreconnectionの話を彼に手早くセミナー前に言っておけたのが良かった。彼はすぐに僕らの論文を打ち出して読み始めていたらしく、いろいろと質問から議論に入った。概念的なところから細かいところまで、そしてsemilocal stringを含めてcosmic string全体の将来的な話など、いろいろ勉強になる議論が多かった。ま、彼はstring theory屋さんではないので、異文化交流に近いところがあるけれど、でもsoliton屋としては共通のハートを持っているので、そういうところでものすごく話があって楽しかった。僕らの仕事をすごくほめてくれたので、それも嬉しい。彼からの話で重要だと思ったのは、彼の先月の仕事だ。WMAPをinflation + cosmic stringでfitするという画期的な話。重要重要。彼はSussexの理論グループを率いているそうで、きっと地元に帰れば忙しい日々なのだろうけど、こうやって出張先で出会うとお互い非常にゆったりと時間を持ててくつろいだ議論が出来るのがとても嬉しかった。

2、3時間議論をし、その後うろうろしているとばったりSusskindに出会う。ここぞとばかり、先ほどはたくさん質問をありがとうございましたと礼を言うと、彼の方から、最後のchiral condensateの話は結局良く分からんのだがといって議論を始められる。これはありがたい機会だと思い、存分に議論させてもらう。大変楽しかった。僕の主張がどうやら受け入れてもらえたようで、それは良かったが、やはり腑に落ちず最後にお互い共通に残った問題は、今後の研究課題である。holographyの名の発案者の前でholographyの議論が出来るというのは幸せだ。一緒に書いた黒板を記念に写真をとって残しておこうかと思ったが、それもやりすぎかと思い直して、すぐ消しておいた。

Perimeterにいる小林君や松浦君と議論をしたりこちらの事情の話を聞いたり、Myersの学生のRowanとphase diagramの議論をしたり、他にもいろいろとあった。(小林君松浦君ありがとう。)結局その後Alexにも会えて、最近お互いやっていることや、AdS/QCDへの問題意識など、意見交換する。旧友と会って物理の話で盛り上がるほど楽しいことは無い。Alexは変わっていなかったし、サンタバーバラの日々が鮮烈に思い出された。

今回の外国生活は二週間。三つセミナーというのはちょうど良い数だったように思う。自分の研究成果を人に知ってもらえたのは良かったし、それに予想外にいろんな人に会って話が出来たことも良かった。研究滞在というのはそういうものだが、今回のように一度行った事がある場所に再び行くということであまり期待をしていなかったせいか、逆に出会いをとても楽しめた感じがする。経験は記憶に残るが、きちんと今回の出張の物理に関するまとめを書いておかないといけない。いろんな方向性でいろんな刺激があったから。さ、ノートに書いとこ。

帰国したら一日休んで物理学会。やつれそうやわ。