札幌駅にて。

北海道大学でのconference「SUSY in 2010's」も昨日で無事終了。しかし、分からない実験の話が多かった研究会やった・・・・僕は疑いも無くこの研究会に出席している参加者の中で一番実験を理解していない部類の人間。次々と映し出されるデータのグラフに目を奪われ、縦軸と横軸の意味を考えているうちに次のスライドに移ってしまう、ということの繰り返し。もちろん、久野さん、岡田さん、野尻さん、小林さん、そして幾人かの外国人のなどの理論側のレビュートークは僕にも大体は理解できた(少なくとも何を書いてあるのかは分かりました・・・)のだが、しかしやっぱりATLASなどの実験のDetectorの詳細などはちんぷんかんぷん。ところどころに挟まれる冗談だけは理解したが、そんなところを理解してもしょうがない。結局、実験のほうで今頭に残っていることは、LHCの開始が、当初は今年のうちに主リングでは加速しない衝突を実現するといっていたのが、来年の夏にきちんと加速して衝突させるという計画に変わったということ。ILCにむけて実験関係の人たちが本当に詳細な準備をして動いているということ。ILCとLHCの役割。LHCでも様々なDetectorが稼動してそれぞれに利点があり目的が違うこと。Super Kamiokandeの次世代型がたくさんproposeされていること。こんな感じのgenericな印象と、他にはこまごまとした記憶がたくさん。

僕のした話は、みなさんにどう受け止めてもらったのか、それは本当のところは分からない。何をゆうとるんやおまえ、と思った人もいるかもしれない。自分としては、ストリング屋が実験や観測に対して抱いている正直な感想をそのまま話して、(少なくとも一人の)ストリング屋が今どういうことを考えているか、それがなぜこういう実験に対する期待になるのか、ということを伝えたつもりではいるので、少なくとも個人的には満足した。しかし、僕の話の効果?は、個人的な満足では全くはかり知れない、特に今回のような業界をまたがる国際研究会で僕がかなり分野外の感じの場合。こないだの本郷の初期宇宙研究会もそうだったけど、どうも話した後も良く分からない。

そう思っていたところ、研究会後に石川さんと堀田さんに誘ってもらい、駒宮さんやTataさん、井上さんと打ち上げに。どう思われたかの率直な?ところを聞いて、非常に勉強になった。分野と手法が違うことによる、考え方や思い入れ、動機の違いをいろいろと知って、なんと言うか、ちょっと壮大な言い方をすると、物理もいろんな人たちが集まって物理になっているんだという、ある意味で当たり前のことが、実感できた。業界の区分化というのは恐ろしい。そういう意味で、少し実験の方々にも少なくとも一人のストリング屋の考えていることを伝えることが出来て、それは良かったのではとも思う。しかし同時に、僕の考えていることが業界の考えていることと同一視されるという大変危険な可能性も大きい。そのリスクのことを言葉にしたつもりだが、果たしてどのくらいの方がそれを差し引いて聞いてくださっただろうか。

考え方が壮大になっているのは、北海道が壮大やからやろう。北大のキャンパスがこんなに美しいとは思いもよらなかった。まずその緑に目を奪われる。広大なキャンパス、人口密度は駒場の10分の1いや100分の一かもしれない。芝生にくつろぐ学生。半ば信じられなかった、日本にこんな豊かな大学があるとは。いやもちろん、冬は厳しいわけで、今が非常に良い季節だからそう見えるというのはあるけれど、それでも、これは豊かだと思った。ほんの少しの芝生を探して東京をうろうろしている自分が完全なアホに思えた。研究会が行われているホールも、一方裏に出ると、芝生の上に白い花が広がる美しい森。北海道の人はこんなものを森とは言わないのだろうけれど、東京に住んでいるものにとってこれは既に森。過去に見た美しい緑が思い出された。アスペン研究所の芝生と白樺の中庭。ケンブリッジの大学植物園。どれもこれも外国の遠い遠い場所で、記憶の中にしか存在しそうに無い、また訪ねたいと思っている場所ばかり。それが、日本に実現しているということに、圧倒されてしまった。研究会の昼休憩に芝生に寝転がってみる。美しい雲のダイナミクスを堪能する。青空に向けて横になると、昔体を悪くしてしょっちゅう京大のキャンパスに寝転がっていた頃を仕方なく思い出す。昔は空をそうやって見るたび情けなくて悲しくなっていたものだが、今はそうではないことに気づいた。空を見ることの楽しさをあの不調な時に教えてもらったから、今こうやって札幌で空を楽しめているのかもしれない、と思えた。

今も車窓には広大な緑が広がっている。札幌を訪ねるのは高校の修学旅行以来で、そのときに巡ったはずの場所を訪ねようとするも、時間も無く、断念。けれど、今回の北大訪問は、そういう懐かしむ訪問ではなくて、全く別の新しい経験をして、満足している。高校生の時は、この場所に16年後にこうやって訪ねているなんて、全く想像もしていなかった。想像することはおろか、あの時は脊髄反射でしゃべって笑い転げていただけの生活やったから、まあそういうことしか記憶していない。また北大を訪ねる時に、今回の思い出が楽しくよみがえるだろうと想像した。

『Dブレーン』を読んでくださっている方にお会いするたび、感謝。

さて明日からはMadridやわ。