来週は埼玉大で特別講義。

理研に移ってから研究の時間が増え、それにつれて日記の書くペースも上がるかと思いきや、日記のペースは全然上がっていない。まあ、いいのかな。研究室では楽しく研究しているので、日記をわざわざ書いて気分転換しなくてもいいということなのかもしれない。それで、家に帰ってちょっとした時間が出来たときにこうやって書いている。やはり10月から生活が劇的に変わった。当たり前かもしれないけれど、いまさらながらそれに気づく。家に帰ってどうしているかということは僕は自分ではあまり意識的には気づいていなかったんだけど、妻によると、随分違うらしい。

このところインフォーマルセミナーをとても楽しんでいる。確か先週は金森君のstochastic quantizationのMinkowski化について。僕はほとんどstochastic quantizationを勉強したことが無かったので、ありがたかったんだけど、それがある面白い物理と関係しているんじゃないかという妄想が膨らみ、自分なりに非常に楽しんでしまった。それで、こらえきれずに、次の日のコーヒーの時間に(毎日研究室のみなで昼食をとった後にコーヒーの時間があり色んな話が出来る)、その話を鈴木さんにしたら、面白い面白いといってくださる。まあ具体的にうまくいく話ではないかもしれないけれど、面白い解釈なのではと自分でも思った。それで、Archiveで調べてみたら、案の定そのようなアイデアの論文が。でも、僕の考えていたそのものではないので、少しほっとしたような、それと、きっとこれは難しくてうまくいかないんだろうな、という思いと。

今週のインフォーマルセミナーはしぶさ君で、一般化された不確定性関係について。これ、昔から知ってはいたけど、それをどう使えばどういう作用になってどういうヒルベルト空間になって、ということを具体的に聞いたのは初めてだった。それを非常に面白いと思うのは、数年前に寺嶋さんとやった仕事http://arxiv.org/abs/hep-th/0408094とかなり関係しているように思えたからだ。この仕事では、BSFTの作用を具体的に書いてやって、それから量子化がどうできるのかを具体的に議論したのだが、どうも運動項にたくさんのポールが出てきて、そのポールをヒットするまでしか運動量の積分が定義できず、時空の不確定性に関係するのではないかという感じの議論をした。その作用に似た作用が、しぶさくんの議論から出てくるのである。しぶさくんの話では具体的な不確定性関係から出発して、カノニカルでない運動項を持つ作用を出してくるのだが、その一般化された不確定性関係がストリングの高エネルギー散乱と関係している(Grossらのやつ)ということから、寺嶋さんとやった話と裏で関係していても全然不思議ではない。いろんなことに思いをめぐらせることが出来て非常に有意義だった。もしそんなふうになっているのだったら、CSFTとの写像はうまく行っていない可能性がある。まあoff-shellでstringがユニークだというのは幻想である可能性もある。(でしょ?)

前まで、少し忙しくなるととたんにarchive mailingsからデカップルしてメールがどんどんたまっていくのだったんだけれど、このところ、それを見る余裕がある気がする。昨日かしら、ようやくHindmarshさんの論文が出ていた。Hindmarshさんとは今年の三月にPerimeterであって議論しただけなんだけど、その後少しやり取りがあり、彼はドラフトを読んでくれとよこしてきたので、間違っていそうなところを色々とコメントした。まあ結局それは少しうまくいっていないということになったんだけど、でも、この系はちょっと前に坂井さんと調べた話の続きみたいなものなので、それが発展しているようで嬉しい。

KEKからセミナー依頼が来て、ありがたく話をさせてもらうことにする。そのほか、いろいろなところから、講義や講演の依頼を頂く。どれもこれもありがたい話だ。一つ一つそれらを手帳に書き記していくと、知らない間にどんどん日程が埋まってしまっている。どうしようかしら。

Jenchiに呼んでもらった12月の台湾は、日程も決まり、あちらで話もさせていただくことにもなり、再び訪れるのが楽しみだ。今回は新竹にも呼んで貰っていて、そちらは初めてなので、台北から離れるとどんな風になっているのか、見てみたい。5月に呼んでもらったフィレンツェのWorkshopも、日程が決まった。これは三週間で、どんな研究会になるのか、想像するだけでも楽しい。フィレンツェは、前にピサに行ったときに日曜日一日観光で寄ったところだが、その日友人に連れられて観光で少し見ただけでも美しい町だった。また訪ねることができるのが嬉しい。どんな人たちとスケジュールが重なるのか、それによってまた色々と面白い議論をしたい。Davidが重なるといいんだけど、彼はやっぱりまとめ研究会に重なるように来るんだろうな。僕の日程は重なっていないから、残念だけど、まあ、静かな滞在もきっと研究に役立つだろう。

来週の埼玉大学の講義のノートをせっせと作っている。間に合わせないと・・・・・と思って書いているのだが、遅々として進まない。だいたい、数学科の三年生四年生も対象にしているところが、僕にとって全く持って不確定要素だ。僕自身が、大学二年で数学志望を断念した人間なので、そういう人間が数学科でいかにも数学が分かっているかのように話すというのはいけない。講義の初めから、数学的厳密性を捨てた話になるということを宣言するつもりだけど、そういう話が数学科で許されるのかどうかは、ちょっと謎だ。

時々山口先生に色々教えていただくために議論するのだけれど、やはり経験と知識が僕と比べ物にならないので、勉強になる。これだけ年も違うと常識も全然違うので、感心したり、それはないでしょうと意見したり。今日は、昭和26年の『素粒子論の研究』という書を貸してくださったので、帰りの電車でそれを読みいる。茶色くなった価値ある本で、中では、当時の核力の議論が生々しく展開されている。今核力の研究をしているんだけど、歴史的に偏りのある書物を見てしまうと問題があるということが、貸してくださった書物からも分かる。というのは、僕が核力を勉強したある教科書は、実は非常に偏っているらしいということがこのところ分かってきたからだった。歴史というのは難しい。まだ、最終的に論文が書けるレベルまで研究は進んでいないかもしれないけれど、出来上がったら論文でやっぱりきちんと引用しないといけないわけで、それは、特に古い分野の場合、難しい。山口先生にこれを聞いておくのは有意義だった。