年末。

先月、研究や物理とは全く関係ないプライベートなことで、人生を考えさせられることがあった。で、そんなことは容易に結論の出る話でもないし、そんなこんなで、一ヶ月も日記を更新していなかった。これは研究日記なので、物理・職場関係の日記は書く事が出来るのだけれど、書く気が起こらなかった。

四国セミナーの帰り道の新幹線でこれを書いている。ようやく日記を書く心の余裕が出てきたというより、今年の最後のセミナー・講義を終えて、もう年末差し迫っているけれど、ホッとしているのかもしれない。いつもなら新幹線では眠っているか論文を読んでいるかノートを広げて狭い机で計算しているかのどれかなのだが、今日は珍しく週刊アスキーを買ってコーラを飲みながら、それで読み終えたのでパソコンを広げてこれを書いている。なんだかホッとしている。

一ヶ月、研究の上でもいろいろなことがあったので、時間もあることだし、読んでいる方には長くなって申し訳ないけれど、ここに記録のためにも書いておこうと思う。

理研での日常は毎日楽しく、朝から夜まで自由に研究できるというのはこの上ない幸せだということを実感している。朝電車の中でこれを計算しようと決めて、それが実行でき、夕方には計算しつくして、結果が出たり問題点が分かったりする、というのは研究の精神衛生上すこぶる良いというのは言うまでもない。一方でメリハリを失うのではないかという心配が少しあったのだけれど、幸いいろんなところにセミナーなどで呼んでいただいているので、メリハリもあってよい。少し出張が多すぎる気もするが、呼んでいただいて断るなんてもってのほかなので、ありがたさを毎回噛み締めながら、いろんな場所の人たちとの交流を楽しんでいる。

11月下旬のKEKセミナーは、たくさんの聴衆に囲まれてたくさん質問をいただいて、幸せなセミナーだった。現象論の方々やラティスの方々、もちろん弦理論の方々などたくさんの方から面白い質問をいただき、知らない質問にはうろたえ、勉強させてもらい、分かっていると思っていたことももう一度考えないといけないと気づかせてもらえた。そういうセミナーは気持ちの良いものだ。Mandalさんに初めて会って、いろいろと議論させてもらう。他にもKEKのたくさんの方と話す。萩原さんのにっこりとした後の厳しい質問は、楽しいといったら怒られるかもしれないけれど、嬉しかった。野尻さんには知らないことを教えてもらう。板倉さんにも。セミナーのあとは、茨大から来てくださった酒井さんと議論する。要点を理解できた感じがして良かった。

その後12月初旬は、そのときに確認した計算目標を具体的に実行するのに費やしていたと思う。他にも議論していることがあり、一日という単位で、それらのことも考えてみる。一日悩んでいても全く進まないこともあり、部屋の机に一日座っているだけという日もあった。台湾の平山とスカイプで議論して問題がなんとなく分かってきたような分からないようなという日もあった。

大阪市立大学の弦理論の研究会には行きたかったのだけれど、その直後に台湾を訪問する予定になっていたので仕方なく行くのをあきらめた。このところ、海外出張から帰ってきた後で一日寝込んでしまうことがよくあり、外国で体力を消耗している自分に気づかず後で後悔するということを繰り返していた経験があったので、今回は行く前に無理をせず養生しておこうと思ったのだった。結果的には、養生した分台湾で無理をして、返ってきた次の日はやっぱり一日布団の上で寝込んでしまうということになってしまったわけで、ちっとも学習していないということが判明したのだが、次回こそは、外国出張でも無理をせずによく寝てよく食べてという生活にしたい。まあ外国というのは非日常で、一瞬たりともその生きている瞬間を無駄にしてはいけないという意識が強く働く。それをその通り実行するからこんな羽目になっちゃうわけで、体を壊しては結局時間を無駄にしてしまうわけだから、無理にでも自分を引き戻すということをしておかないといけない。ハードに予定を詰め込んだら結局無駄になってしまうということを前に経験してきたはずなのに、いかん。市大の研究会のように大きな研究会はなるべく休まず出席してきたつもりやけど、今回、うずうずしながらも行かなかった割には、失敗した感が強い。本当のところ、冒頭に書いた、物理と違う理由もあったともいえるのだけれど。

その、帰国後やっぱり寝込んでしまったという台湾訪問は、やっぱりめちゃくちゃ楽しい訪問だった。けど、疲れがたまった原因は明らかで、セミナーの日の夜、知る人ぞ知る台湾の教授と、朝8時まで飲み倒していたことだ。楽しいには楽しかったが、朝8時にホテルに帰ってきてその日の昼から平山と議論していたのは、やっぱりあかんかったやろ。台湾滞在中は大丈夫だったが、帰りの飛行機では、離陸にも気づかないほど乗ってすぐ熟睡し(食事が出たことも気づかなかった)、着陸の振動で目が覚めるというほどの疲れ具合。別に風邪ひいたとかそういうわけではなかったが、やっぱり次の日はひたすら眠るしかなかった。もう大学院生とちゃうんやから、生活パターンを守るというためにも、ノーといえる日本人にならねばならない。いや、ノーと言う相手は自分ですよ。

台湾大学には松尾さんも滞在されていたので、先日の松尾さんたちの論文についていろいろと説明していただき、ちょっと自分の考えていた問題への認識が深まって、いきなり台湾訪問の良いスタートを切ることが出来た。セミナーも(時間をオーバーして松尾さんに迷惑をかけたが)無事終了、その後台湾の居酒屋に連れて行ってもらってうまいうまい食事を楽しむ。その後の朝までの話はここにくどくど書くまい。とにかく楽しかった。週末は平山と議論したり、ふるごんに観光に連れて行ってもらったり。台湾銭湯で寺嶋さんと議論していたらのぼせてしまった。平山との議論は、一緒に話してずいぶん進んだ(気がする)。台湾に来た甲斐が本当にあった。

月曜日から新竹の台湾交通大学へ。NCTSの新しいオフィススペースに度肝を抜かれる。なんたって、ひろーい議論スペースにソファーがたくさん並び、美しいガラスの黒板、それになんとバーカウンターまである。夜はそのバーカウンターで、ふるごんを初め現地の方々とビールを楽しむ。研究室にバーがあるというその証拠写真をここにアップする約束をしたんだけれど、ほんまに載せてもええんやろか?NCTSでは寺嶋さんが我々の共同研究についてセミナーをしてくださる。現地の研究者と若干議論をしたり。

とにかく、台湾訪問ではしこたま飲み、議論を戦わせ、交流し、寝不足になり、えらく楽しい訪問やった。考えてみれば前に台湾に行ったのはもう3年前のクリスマスで、あれからはや三年かと思うと、なかなか感慨深い。そういや前も12月やったなあ。

関係ないけど、台湾訪問と運悪く重なってしまって、招いていただいた韓国の研究会に出られなくなってしまった。不運なことに、あちらのオーガナイザーの方からのメールが、僕が理研に引っ越したということで届いていなかったという事態。なんてこった。僕のメールの引越しとちょうど重なっていて、運が悪いとしか言いようが無い。1月にBum-Hoonが理研に来てくださるので、その機会にまた韓国の方と親交を深めたい。韓国は、今やっている研究が完成したら、訪問したいと思っている。

台湾から帰国したらすぐ理研研究会。ポスター発表をさせてもらって、参加者の方と物理の交流をしたり。研究会の講演は勉強になることも多く、つまらない質問をいろいろ自分でしたけれど、それもためになってよろし。夜の部の鈴木さんのレビューはこれまたえらく楽しかった。物理、こうあるべし。

その後すぐに四国セミナーに。四国の先生方が年に一回集まって研究交流をしているというこの場所に講師として呼んでいただいて、ADHMの初めからじっくり話をさせていただいた。結局最後は自分の寺島さんとの共同研究の話をさせていただくということなので、Dブレーンの導入などはあるとは言えど、自分の話をこんなにじっくり8時間も黒板で聞いてもらえる機会は無いので、嬉しかった。夜の懇親会では、哲学の話になったりして、久しくそんな話を人前でしていなかったので、なんとも懐かしい良い気持ちになった。呼んでくださったオーガナイザーの方、そして話を聞いてくださった方々に感謝したい。

そんなこんなで、前の日記を書いてから一ヶ月たって今新幹線に乗っている。考えてみると、計算を進めようと思っていたのが、台湾からずっと進んでいない。四国にも計算ノートを持ってきてはいたが、結局講義の準備で時間を使い切ってしまい、一切ノートを開かず。
年明け早々には佐賀で集中講義があるので、その用意を年末年始にしないといけない。
どうなることやら。

手帳をめくってみると、いつの間にか、三月末まで予定がぎっしりになっている。なんでやろ??ま、ぎっしりと言っても、自由人の言う「ぎっしり」やから、もちろんめちゃ余裕があるわけやけど、どうも、自分にはぎっしりに見えてあかんわぁ。今年はよく講演したと思う。あ、こんな感想ではあかん。今年はこの研究が完成して満足や、という言葉で無いといかん。いやいや、楽しかった研究ももちろん完成したので、その意味では満足やけど、うーん、決して現状で満足してはいけないというA型心理があるんやろか、なんともなあ。

品川に着きました。みなさん、今年はお世話になりました。ありがとうございました。良いお年をお迎えください。