La Thuileにて。

Rencontres de Moriondという名前の研究会は1966年から開催されているらしく、たくさんの実験屋と現象論屋でにぎわっている。参加者の中で弦理論をやっているのは僕とZaremboさんくらいなので、知らない人がほとんど。今日は自分のトークを済ませたので、ほっと一息ついている。プレゼンセミナーで学んだことが功を奏したのか、たくさんの質問を受けたので、素粒子実験の人たちにも興味を持ってもらえたと思いたい。トークの後で、知らない人が僕のところに来て、「非常に良いトークだった、祝福するよ、お世辞ではなく」と言ってくれたのが嬉しかった。後で聞くと、その人はこの研究会のオーガナイザーの一人らしい。イタリアまでやってきて違う畑の人たちの前で話をした甲斐があった。

La Thuileはイタリアの北の端、アルプスの山の中にあって、ジュネーブから車で2時間もかかった。車で途中Les Houchesを通り過ぎて、ああここが例のところね、と初めは面白がっていたのだが、モンブラントンネルを10分もかかって通り過ぎるあたりでは、ほんまに今から行くところで100人も集まって研究会やってるんやろか、と不安になった。おそるおそる到着したホテルに入ってみると、玄関ホールあたりに、いかにも素粒子屋という格好をした人たちがたむろしている。片手にノートパソコン、スキーリゾートなのにジーパンとスニーカー、そして人目を気にせず名札をつけて、論文を持ち歩いている、といったら素粒子屋しかあるまい。早速自分もそのスタイルになって、その集団にJoinすることにした。今朝は二年ぶりにTanさんに会う。結局、共同研究が始まってから論文が完成しAcceptされるまで(つい先々週)、Tanさんには会っていなかったので、不思議な感じだ。Tanさんの笑顔を見ただけで、はるばるやって来てよかったなと思う。Large Nの研究者とも話をすることが出来た。彼自身も、なぜLarge Nがうまく行っているかについて、説得できるような説明を言うことはできないと言っていた。

昼からはスキーに出かける人が多いけれど、僕は部屋で計算をしている。早速ノートを書き上げて、共同研究者に送ることが出来た。もう自分の発表も終わったので、外は吹雪やし、ゆっくりと部屋でくつろいでいる。幸い食事も全部ホテルで済ませられるし、まあここでスキーをしてくたびれる必要も無いだろうから。もっと余裕が出来てしかも外が晴れたら、スキーを少ししてもいいかもしれない。それまでは、空き時間は部屋で計算していよう。

今日の夕食はHongさんと食べていたら、いろんな人が集まってきて、なぜかオーガナイザーのテーブルになってしまった。研究会のオーガナイズについての面白い話を少し聞いたり。Hongさんと親しくなれてよかった。なぜって、こないだの釜山の研究会で、非常な偶然の行き違いから受けられなかった招待は彼の招待だったからだ。ありがたい機会を一つ失ってがっくり来ていて、彼に会ったらどういう顔をしたものだろうと考えあぐねていたんだけど、杞憂だった。この研究会で唯一ホログラフィックQCDをよく知っている参加者なので、明日も少し議論できるかな。

僕は時差ボケには強く、たいていその日にはその土地の時間帯に慣れてしまうんだけれど、今日は夜中に起き出してこれを書いているのは、IPMUのOpening Symposiumをインターネット中継で聞いているからだ。今ここは夜中の2時でかなり眠いけれど、これを聞かない手は無い。