ヘルシンキ滞在。

楽しいヘルシンキの滞在も今日で終わり。ヘルシンキ国際空港で飛行機の搭乗を待っている。この五日間を振り返って、まとめて書いてみよう。


乗り継ぎのコペンハーゲンの空港で、これからどんなたびになるだろうかと楽しみにしながら書いていた日記が、こんな感じだった。

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乗り継ぎに四時間もあるのでこれを書いている。コペンハーゲン空港に降りて外を眺めたとき、ヨーロッパに半年住んだ記憶がありありとよみがえってきた。ヨーロッパの冬の空。水色と灰色のグラデーションの美しい空と、濡れた地面。そうか、もうあれは3年前になるのか、ここに前回やってきたのは。寒いケンブリッジの暗い雲の下を毎日歩いていたときの、凍るような肌の感覚を思い出す。思い出して、感じることは、良くあんな場所に2歳の娘を連れて冬だけ半年住んだもんだなあ、という気持ちと、圧倒的な懐かしさと。

飛行機ではfluctuationの計算を試みていたが、どうもゲージ固定が良く分からず、二時間ほど、うんうんとうなった後に、諦めてしまった。あの論文を参照するしかないが、手元に無いので、ヘルシンキについてからダウンロードするしかない。

のんびりと映画を見る。娘が生まれてからというもの、映画を見るのは国際線の中だけという感じ。飢えていたせいか、三つも観てしまう。どれもハリウッドアクションだけれど、何も考えずに見られるのでそれが一番いい。映画の後は恒例の阿房列車の至福の時間。

ヘルシンキどんなところだろうな。地球の歩き方をはしから読んでいくと、なかなか小さなのんびりした町のように想像される。町の地図もなんとなく頭に入ったし、あとは、無事宿舎と大学にたどり着けば、何とかなりそうな感じがしてきた。さて、まだ乗り継ぎ便まで時間が有り余っているので、スライドの手直しをしよう。


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こんな風にいろいろと楽しく過ごしていて、次の日に研究所に着いたら日記をUPしようと思っていたら、そうも言っていられなくなった。というのは、ヘルシンキで飛行機を降りて、自分の荷物が出てくるのを待っていたのだけれど、いつまでたっても出てこない。乗り継ぎに四時間もあったのに、荷物だけ遅れるなんてありえないでしょう。スカンジナビア航空おそるべし。荷物が出てこなかった人は他にも5人くらいいて、みなで怒りつつBaggage claimへ。そうしたら、こんなことは日常茶飯事という幹事で処理されて。受付の人が言うには、荷物が紛失することは99.9パーセントありません、とのことだったが、そうしたら後の0.1パーセントって?荷物無しで大学の宿舎に向かうことになり、えらく不安になった。スターアライアンスの「一夜パック」という、シャツとか歯ブラシとか入った袋だけもらって、タクシーに乗り込んだ。一応貴重品は手荷物でもちろん持っていたんだけれど、服がない。ヘルシンキに着いたら着込もうと思っていたフリースや手袋・スキー帽がない。むむむ。

幸い大学の宿舎の部屋は、ヒーターの目盛を最大にすればそう寒くも無く、毛布も置いてあったので、素っ裸で寝てもなんとか大丈夫だった。一夜パックに入っていたシャンプーで頭を洗い、幸いシェービングクリームや髭剃りも入っていたので、一日目の朝は普通に生活が進んだ。いつもどおり、時差ボケがないので良く眠って、朝7時に起きる。

朝、と言ってもかなり暗い。さすがフィンランドやわ。滞在中に太陽を見ることがあるんだろうか。ヘルシンキ大学の宿舎は朝食がついていて、すこぶる快適だった。ハムやらゆで卵やらをポアロっぽく食べていると、ピサにはじめて行ったときのホテルの朝食を思い出した。おんなじやわ。ハムとチーズが二種類ずつ、全部試してみたら、普通においしく食べられるのはそのうちハム一種類だけだということが判明したので、明日からはこのハムのみを食べようと決める。

Eskoが非常に詳細な道案内をメールで送ってくれていたので、研究所までの道も全く問題ない。バスに乗るときは2.20ユーロだとか、とか、非常に助かる。すぐに美しい研究所に到着した。研究所は全く美しい。研究室はガラス張りで、広く三階まで吹き抜けのロビーから全ての部屋が見えるようだ。まだ会ったことが無いEskoの部屋を訪ねると、にこやかに迎え入れてくれた。そうすると、なんとそこに僕のかばんがある、やんけぇ?!Baggage claimでは宿舎の住所を伝えたのだけれど、電話連絡先情報が必要といわれ、仕方なく、メールで教えてもらっていたEskoの携帯の番号を教えたのだった。そうしたら、なんとEskoの研究室にかばんが届いたらしい。いやあほんまにホッとしたよ。もしこの月曜日に届かなかったら、午後服を買いに行ったりいろいろと苦労していたに違いないから。特に問題だったのは、パソコンの電源コードがそのかばんに入っていたということやったかもしれない。月曜日の朝にパソコンを起動してみたらあと1時間半しか電池が持たないという表示が出て、こりゃセミナーどうしたもんかなと気をもんでいた。とにかく、そういう心配が全部霧散したわけで、ホッとした。

早速、河井さんや佐々木君に会う。ポスドクのPattaの部屋にお邪魔して、さんざんholographic superconductorの議論をする。いやはや、先週の勉強会で少し勉強してよかった。おかげでいろいろとまた世界が広がった感じがする。

このInstituteでは、毎日朝10時と午後2時にお茶の時間があり、みなが集まる。これがとても良い。なぜ集まるかというに、この時間の前後20分間くらいだけ、コーヒーマシンが無料で使えるよう設定されているのだ。なんとまあ。無料のコーヒーというのは重要で、サンタバーバラの時のクッキータイムと同じく、一息入れようとみんながやってくる。議論中でも少し息抜きできるし、そうしたらそこでまた議論が始まって個別に議論なんてこともあった。僕のようなビジターにとっては自己紹介のいい機会になった。毎日このお茶の時間は楽しかった。日常の話や物理の話。

火曜日のセミナーは、自分のパソコンがなぜかつながらないという問題が発生したために古いファイルをUSBスティックで研究所のパソコンに移動するというヘマをしでかしてしまって、折角その日の朝に付け加えた非ストリング屋向けのイントロトラペ一枚が無駄になってしまった。仕方なくその内容を口で説明する羽目になる。それはともかく、モントネン先生の前でこの話ができるのはたいそう幸せだった。質問もいくつか出て、その後Pattaがいろんな点を質問してくれたので、悩みながら議論をする。悩ましい。しかし少し分かった点もあったので、それは良かった。セミナーしに来た甲斐があった。

佐々木君にモントネン先生と一緒にしている仕事の説明をしてもらう。どうも僕と議論して少し進んだといってくれたので、良かったよかった。モントネン先生は非常に人当たりの良いやさしい方で、あ、一緒に写真撮っとけば良かった・・・その後、他の先生に、Wittenのpure YMを出す話のエッセンスを教えてくれないかといわれ、水曜日は少し講義のようなものをする。喜んでもらえたのでよしとしよう。その後は又Pattaと河井さんと議論。そんなnon-BPSの時の公式があるのね。不思議すぎる・・・今度Avinashに会ったら聞いてみよう。

そんな風に過ごしていたら、あっという間に滞在の時間が過ぎてしまった。請われるままに、流れるままに、いろんな部屋で人々と議論させてもらい、得るものも多かった。その間にいろいろと自分の研究を進めるべく計算をやるが、なかなか難しい。そっちのほうは、order estimateしか結局できなさそうなことがわかっただけだった。夕食には毎日河井さんの佐々木君に連れ出してもらい、フィンランドを堪能。いや、フィンランド、めちゃくちゃ寒いですよ。ほんま寒い。けど、寒い国には寒いときに来るのがいいでしょう。いやあここに住む大変さが少し分かった気がしたよ。でも、今度来るならやっぱし夏がいいな・・・

ほんの少しだけど観光もした。と言っても、宿舎のそばにある、大聖堂に行ってみただけだけど。ヨーロッパのいわゆる大聖堂と比べたら、小さい。静かで、白く美しい聖堂だった。円がうまく組み合わされた美しい形をしていて、しばし眺め入っていたら、あれ、この模様どこかで見たことあるぞ?と思い、苦心して思い出したところ、それは昨日セミナーで発表した、SL(2,Z)のfundamental domainだった。それで非常に興醒めして、急いで聖堂を出た。

夜にQuantum of Solaceを観る。なぜかって、日本で公開するのは来年やから、ちょっと優越感あるやん!一人でこうやって映画館で映画見たの、ほんま何年ぶりやろ。5年ぶり?うん、それくらいかも。Bondがある場面で英語以外の言葉を話したりするんだけど、そこはFin語で字幕が出るわけ。僕に分かるわけないやん・・・

宿舎にサウナがあったので、今朝はそれを試してみた。うーむ、はっきり言って日本でもサウナってほとんど入ったこと無いのよね。記憶に無い。なので、サウナの効用が全く分かっていない。receptionの人が、なるべく長く入っているようにねと言っていたので、しばらく座ってみる。すると、不思議に、あまり暑く感じなくなり、流れる汗が気持ちよくなってきた。ずっと座っていたかったけど、もう帰国の日なので、体力を使ってはいかんと思い、それでやめにしておいた。体が軽くなった、とか言いたいところだけど、顔の肌がカサカサになった以外は効果は無い。やはり初日に入るべきやったか。

ユーロが安くなったといっても、やはり人件費がかかるものは値段が高く、円高で旅行が楽しくなるという感じはあまり無い。まあ、ユーロで旅費を出してもらっているからかな。ボツボツ搭乗の時間。コペンハーゲン空港はクリスマスの装いで華やいでいる。木の床が暖かみをもって旅行者を迎えている。あったかい日本に帰ろ。来週は本郷でセミナー、理研原子核の研究会。佐々木君、河井さん、いろいろと本当にお世話になりました!