基研、IPMU。

昨日、今日と、それぞれ基研とIPMUで、講演をしてきた。両方とも大変刺激的な日になった。

基研では1月からNFQCDという滞在型ワークショップが走っていて、現在はエキゾチックハドロンの部となっている。僕はそこに呼んでいただいた。正直のところ、いろいろ見つかっているテトラクォークの候補とかそういう流行のエキゾチックはまだ手をつけていないので、自分のトークがワークショップの目的にはまるのか若干不安が。が、月曜日に聞いたDiakonovさんのレクチャーで、その不安は晴れた。ま、似たようなことしてるということが分かったからね。それにも増して、セミナーの雰囲気のざっくばらんなこと。人数も多く無くてちょうどいいし、質問も非常にアクティブで、むしろ自分の講演でどんな議論が出るのか楽しみになった。そこで、その日の夜まで基研に居残って完成したスライドは、ずいぶんと、こないだ飯塚君・石井君・加堂君と出した論文の宣伝が大きくなった。そこが目標だったので、その意味では良いスライドが出来たかもしれない。

実際の講演では、質問が出るわ出るわで、とても刺激的だった。AdS/CFTへの良くある批判も相当あり(まあ僕の話し方がまずかっただけかもしれない)、始めのそれが過ぎると、後は一転してかなり教育的な質問が多く(教育的というのは僕が勉強になるという意味ね)、大変ありがたかった。こんな風に、世界各地から集まった、large N の専門家や chiral PT の専門家、quark model の専門家、Lattice の専門家などなど、に囲まれて講演をするというのは、すばらしい。いろいろ宿題ももらったが、とても良い宿題で、極言すればおそらくそういう宿題を解決したらあわよくば論文がかけてしまうんやないか。motivationが違う人が集まって、一つの式について議論するというのはこうも実りあることなのかと、感心することしきり。

結局一時間の講演時間のはずが、午後のディスカッションにもつながって、4時間ほど話したことになった。自分たちの研究についてこれくらいしっかり議論してもらえる機会はあまり無い。くたくたになったけど、頭も破裂しそう。

帰りの新幹線では、その宿題をまとめた後、IPMUの発表原稿を作り始める。どない話そうかなとうらうらと考えているうち、やっぱし今研究している一番面白いと思うものを発表したいと思って、共同研究者の人に聞いてみた。最近は新幹線でスカイプが自由に出来るわけね。すると早速オッケーとのこと。論文発表前の話だが、出来上がっているところは話すことにした。物性の方々の前で原子核理論の話をするということがどういう結果になるのかまったく未知数だったが、ま、動機としては高密度QCDなのでほとんど物性の一分野と言っても間違いない。と思って、開き直ることにした。

やっぱし今やっていること、めちゃ面白いし、理論としての可能性も感じているので、自分で興奮しているわけやから、その興奮を聴衆に伝えないで他に何をすることがあろう。せっかく講演の機会を戴いたのだから、やっぱしそれで行こう。そう思ったら、また気分がずいぶん楽になった。結局、家に帰って日付が変わってもスライドを書いていたので、朝にIPMUへ向うつくばエクスプレスでスライドを見直していたらいろいろと反省点が出現。夢見心地で口走っていたところを修正する。

IPMUの新しい建物に初めて入ったが、なんとも感動的なスペース。三階に上ってみると、研究者のパラダイスのような光景が広がっていた。僕は、落ち着けるソファーに黒板、それだけを見てパラダイスといっているだけなんやけど、いや、やっぱり、パラダイスやね。僕の新研究室も、スケールは違えどこんな風になるとええなあと思って、夢を膨らますことにした。

講演前は相変わらず緊張し、いろんな人と話したりうろうろとしたりして、平常を取り戻そうともしてみた。まあ、適度の緊張は必要よね。で、本番はどうだったかというと、僕の話の評価はやはり僕の話し方ではなく戴いた質問で評価すべきであって、その意味では大変良かったように思う。良い質問をいくつも戴いたし、非常に重要な点を突いてくださった質問も。うれしかった。問題を的確に理解してもらえる人の前で話をするというのは幸せなことだということを、基研に続いてここでも実感。

IPMUのフォーカスウィークも基研のNFQCDワークショップも、いろいろと面白い講演を聞いて勉強になるのでそれはそれでもちろん楽しいのだが、やはり自分がそこで講演をして自分の研究内容を話して、直接のフィードバックをもらえる、というのが、自己利益だけの観点だけど、やっぱりうれしい。IPMUはあと二日、結局部分的にしか参加できないけれど、楽しもう。