Blois研究会。


新スカイライナー+ANATGVと乗り継いでやってきたのは、フランスの田舎の城下町Blois。駅に降り立ったのは夜九時と遅かったのに、真昼のように明るい。フランスはまだまだ日が長いのだ。ぽつんと駅に降り立ってみると、何ともさびしい駅前。店もない。ホンマにこんなところで、研究会やってるんやろか、とかなり不安になった。飛行機の中で講演のプロットがだいたい完成し、プロットを作って、それでTGVの中でスライドが大体出来上がったのは良かったけど、研究会の場所を間違えていたら、洒落にならない。
ぽつぽつと歩いていくと、確かにインターネットで予約した宿が見つかった。google street viewの威力を感じる。日本にいながらにして、駅からホテルまでの道筋の風景を予習できるんやからね。それで少し安心して、宿の部屋に収まり、シャワーを浴びて着替えた。夜の九時半というのに、外は明るい。よし、研究会の会場まで確認しに行こう。そう思い立って、半ズボンでポツポツ歩き出した。研究会の会場はBlois城の中、とwebpageには書いてある。ほんまやろか。美しい白い城まで、そう思いながらやってきた。もちろん門は閉まっている。そりゃそうか、夜9時半やし。どないしたもんやろかと門を見ていると、急に中から人が出てきた。ネームタグをつけて、リュックサックにはみ出したTシャツ。こりゃ素粒子屋やろう。聞いてみると研究会の参加者だという。その裏口ぽい所からそっと入ると、そこは城の美しい中庭で、Blois城の荘厳な螺旋階段が目に入った。その向こう側には研究会のポスターが。ふわー、良かった。ほんまにこんなお城で研究会をやってるわあ。

今は自分の講演がようやく終わり、ホッとしている。幸い、聴衆の実験屋の方々には温かく迎えていただいた。講演すばらしかったわよと後で言いに来てくださる親切な方も。講演中はうなずいて下さる方もたくさんいて、助かった。まあ自分の講演の中では成功といってもいいだろう。これで、超弦理論の手法が実験の人にも少しでも興奮が伝われば、そして浸透すれば、と思う。講演が終わって休憩時間、"Your talk was awesome"と言ってきた実験の若い方が。よっぽど感化されたらしい。こちらとしてもうれしい限りだが、いつもこんなときに聞かれる「ホログラフィックQCDのいいレビューってどんなのがありますか」の質問に上手く答えられない。発展中だからなかなか無いのですとしか言いようが無い。それでついでに自分のproceedingsとか宣伝して教えてしまう。
Chung-Iといろいろと議論や話をする。実験の最先端の方向も少し見えたり、研究会でいいところもあるが、むしろ、自分の講演が受け入れられたという安心と、それと美しいフランスの町並みの中に身をおいて自分の研究をじっくり振り返ることの出来るこの空気。それだけで、来た甲斐があったと感じた。明日にはイタリアのトレントに発ち、その講演の準備をこれかrしなければいけない。今晩のバンケットは、楽しもう。
少しStrasslerと議論できるかな、と思って休憩時間にぶらぶらしていたら、Strassler氏はいろんな方と議論中のよう。それで、少し休憩室の横で待つ。出てきたところに握手を求めると、えらく気楽に話してくれた。うれしい。彼のいくつかの論文は大変感化された記憶があり、ご本人としゃべれるなんてとても光栄だ。それで、かねてからの疑問について色々と質問した。Seiberg dualityの彼のSOの話のことで、寺嶋さんと衛藤君と前に論文を書いたのだが、そのあたりのことについてひとしきり議論させていただく。茶目っ気のある笑顔とくりくりした目になんとも魅了されてしまった。弦理論でいろんな謎が解けるといいね、という彼の笑顔は、僕の真剣な目に焼きついてしまった。うん、正しい方向やわ、と思う。
フランスの田舎町は美しい。城は言うにも及ばず。食事は大変うまい。何百年の歴史を持つ城の中で講演するのは、光栄なことだ(声は響きすぎたけど)。色々と貴重な経験をしている。
研究会のexcursionでは、レオナルドダビンチが晩年をすごしたというお城へ連れて行ってもらった。ダビンチのベッドや机を見る。なんと小さいことか。世界の偉人がやはり一人の人間に過ぎなかったということを知る。仁科の机を見た時も同じ感覚だった。おそるおそるダビンチの机に触れてみる。小さなざらざらした木の机だ。温かみがある。やはり、やはり、普通の木の机だ。特殊なことは何も無い。ダビンチも一人のおっさんだったということが実感できる。そういう体験というのは実に重要だと思う。
日本ではまもなく、夏の基研研究会が始まる頃。明日の朝少しネットで観る。オーガナイザーやけど現場にいられなくて大変残念。