黒板。


新しい研究室スペースに引っ越した。まだダンボールが若干量積み上がっているが、快適に研究をスタートしている。ついに黒板が設置された。4月の設計段階からもう4ヶ月、待ちに待った本物のご登場で、研究室が一気に理論の部屋に変身した感じがする。頭上から足元までの広い黒板、これ、サンタバーバラで初めて目にしてから、ずっと、自分の研究室ができたらこんなのを壁一面につけてみたい、と思っていた。理研が僕の自由な研究室構想を実現させてくれたおかげで、この日がこんなに早く来るとは。
足元まで広がる黒板は、単に、長い式をどんどん書けるという実用上のものじゃない。ということはすべての物理屋、特に理論屋は分かってくれるだろう。数学屋も分かってくれるだろう。これ、式を書く人にとって、理想やね。ほんまに。これを設置したかった僕の気持ち、分かってくれる人、多いはず。自分が中央に式を書いたとき、そのアイデアがどちら方向にもずっと展開していける、そういう想像の発展性の象徴なわけで、黒板に向かったときの心の開放度がぜんぜん違う。って、サンタバーバラ理論物理学研究所(現KITP)で知った。黒板があの端まであれば、そこまで議論を展開したらどうなるか、よしあそこまで式を書いてやろう、そんな心意気も出る。黒板を使っていると、いつも書く場所が無くなり、「ねえここんとこ消していい?うーんやっぱりこっちを消そうか」ってな話に共同研究者といつもなる。で、黒板をデジカメで撮影したりとかいう羽目になる。黒板が広いと、そういう問題もなし!
で、早速チョークを滑らせて見る。と思って、ふむ、黒板のはじめの文字は、黒板に命を吹き込ませるわけで、どんな文字を書くかで黒板の運命も決まってしまうかもしれない。そんな風に突然感じて、何を書こうか思い悩んでしまった。試し書きやのにね。それで、結局えいやと書き始めたら、やっぱり「S=∫d^4x・・・」という感じになって、うむ、それしか出てこないあたりは、素粒子物理屋やなあと、我ながら。そのあとの点々の部分は、ゲージ理論になってしまった。これもまた、素粒子物理屋やなあと。その証拠写真がこれ。
これをお読みの関係者の皆様、ぜひこの黒板に命を吹き込ませるために、うちの研究室に来てください。で、一緒に、式を書きましょう。広い黒板を最初に埋め尽くすのは、誰? 僕?いや、僕にとっては物理は議論なので、うん、一緒に埋め尽くす人、来てください。