パリの空の下で.


体調が優れないまま成田から発ち、パリの街に降り立った.外国出張するときにはいつも、心が興奮状態になるものだが、今回は違って、少し沈んでいた.いや、沈んでいたというより、なんと言うか、ホッとしていた.なんでホッとしているんやろ、と機内で振り返ってみた.答えは明らかで、今週やらなくてはいけないことが一つしか無い、という明らかな事実が自分をホッとさせているのだった.
日常の業務から解放されるというのは、研究者にとって命綱であることが眼前で明らかになった気がした.今回の出張と重なっている業務や会議がたくさんあるが、それは全て、申し訳ないと思いながらも代理の方にお願いしたり、そのために調整したり.家族を含めいろんな人に無理を言って、一週間の時間を作った.その一週間がようやく始まると悟り、機内でホッとしたのだった.
自分の今までの日記を見ていると分かるが、何度も繰り返し、もやもやした頭の状態を如何に作り出し継続させて、研究の方向性を創出するか、を大事にしている.日常業務に阻まれて出来ないのは、このもやもやした時間をつくることだ.答えをあえて出さずに、答えが自然と出てくるようにする.それは、日常業務で瞬時に判断を迫られるのとは全く逆である.
貴重な一週間をどう過ごすか.幸い、自分がチェアをするセッションは今日という研究会初日で終わる.また、自分の講演は木曜日で、講演のドラフトも完成した.今週は、実験の最新の結果を、頭があふれるくらい聞いて聞いて聞き流すのも良いかもしれない.友人とゆったりと物理を話し込むのも良いかもしれない.古い友人にも会うつもりだ.会ったらすぐに研究の話だろうが、それでも、フランスに持って来た自分の体に染み入るような貴重な経験をするには、やはり、日本で時々思い出す古い友人の顔に直接会うことが効果的だろう.
頭をリセットしよう.で、パリの街に出発.会場のパリ天文台まで、徒歩5分の所にホテルをとってしまって、失敗した.もっと長い距離にしておくべきだった.歩くという行為は、研究の時間である.