展望会.

10分間という短い持ち時間で、今年一年の自分の研究を振り返り、来年一年の展望を語る、というのは簡単ではない.しかし、10分間に凝縮しないと見えないことがたくさんある.本郷の初田研で毎年開催しているらしいそのような会を参考にして、展望会と名前を付けた会を昨日開催した.
それにしても、色んなまとめ方があるものだ.10分にまとめるというだけの条件だったので(しかし質問は何でも許すことにして、議論を含めた時間は30分)、発表の形態の多様さは僕の想像を超えていた.持ち時間のほとんどを使ってミニセミナー形式で研究成果を語ってくれる人もいれば、これからの自身の研究姿勢についての課題を具体的に見つめ直す人、自分の研究時間の構成割合を円グラフで示して来年にむけて身を引き締める人、多彩なoutlookのそれぞれの難しさを評価する人.矢崎先生にもご参加いただき、黒板での研究成果の発表はまるで講義を聴くかのようだった.
前日に自分のスライドを用意していて、はたと考え込んでしまった.僕はどうなんだろう.今年度何をしたか.来年度何をするか.今年度やった一番嬉しいことを皆に伝えるチャンスや.ほんで、来年度これを絶対やるということを宣言するチャンスや.はたしてそこで言える一言はなにか?
10分に制限したのは、言う言葉の数を減らすため.一年の成果を話すには10時間あっても足りないのは当たり前.なので、それを10分でするというのと、1分でするというのは、実は同じ.そやから、10分与えられていても、一言で終わらせないと行けない.一言でまとめないといけない.
そう思って出てきた一言は、「僕の原子核が出来た」やった.展望会ではしょっぱなに、皆に、超弦理論ホログラフィーでQCDから計算した原子核の、立体画像を見せた.皆のコメントの出ること出ること.嬉しかった.僕はこの、まあるい原子核を出すために、この4年やってきたんやわ.その厳然たる事実を、展望会の準備をするまで忘れていた.毎日の計算や思索は細かいステップに溺れ、一年という単位で物事を考える機会を失っていた.展望会は、まさに展望会になり、僕自身に素晴らしい機会を与えてくれた.研究室の皆のため、と思って開催してみたが、うん、研究室メンバーの一人としての自分にも大きく役立ったことは間違いない.
展望会の後は、というか途中から、お酒が入り、研究室を出て行く人の壮行会となった.この一年、新研究室の激動の中をくぐり抜け、研究室を生み出すことに協力してくれたメンバー達に礼を言った.彼らなしでは、この場所は単にがらんとした空虚な空間だったことだろう.それが、今では、広大な黒板は常に議論で埋め尽くされれ、ライブリーな雰囲気であふれ、時には研究会などで人がたくさん集う場所になった.理論物理をやる場所として、少なくとも僕の理想の場所になった.空虚な場所をこのような理想の楽園にしてくれたのは、研究室メンバーと、川合研を含む周囲の方々のおかげである.そのうちの少なくない数の人たちが3月で去って行ってしまうことは、本当に寂しい.しかし、彼らの旅立ちに際して、展望会という形でも、少しだけはなむけが出来たような気がした.けれどもこれはまさに直接そのまま、来年度の自分自身へのはなむけになってしまった.